Never judge a book by its cover!
半日付き合ってもらったお礼に、おすすめの場所を紹介してもらって、夕食をごちそうすることにした。
ベトナムに来て、唯一バインミーは食べたことない、と言うと、ちょうどいい店があると言って、連れて行ってくれた。
いかにも、現地の人が好みそうな店内を見渡す限り観光客の姿はなかった。
日本で1度だけ食べたことがあったので、その姿形は想像していたけれど、ベトナム式の食べ方はこれが初めてだった。
何重にも折り重なったライスペーパーを1枚ずつはがし、その上に好きな野菜とメインのバインミーを乗せて包んでいただく。
肉味噌が入った特製の味噌ダレにつけて食べるその味は格別だった。
日本に関心があるお姉さんの影響で”ヤサイ”という言葉だけ知っているKim。
とある野菜を指差して、「これは緑豆から発芽するヤサイだよ」と教えてくれた。
(それは、モヤシといって日本でもかなり有名なヤサイだよ、という言葉はお冷とともに飲み込んだ)
本当に、美味しくて何度もおかわりを所望しかけたわたしをこれから飛行機に乗るんだからなるべくお腹は軽い状態にしておいた方がよい、とまるで保護者のようなことを言ってくれる。
空港にチェックインする時間が迫ってきたということは、
おのずと別れの時間を意味する。
足早に空港へ送り届けてくれる道の途中で
「ダナンの夜景を見たことはあるか?」
と聞かれて、ない、と返事をすると
それならこれからハイライトを見せてあげるよ、最後の最後までバイクを走らせて案内してくれた。
ドラゴンブリッジから一望するダナンは目で見る美しさ以上にベトナムを去る最後の夜を飾るのにふさわしいものとして印象づけられた。
写真は1枚もないのだけど、それがまたいいというか…
記憶の中でたまに思い出した頃にここへ戻ってきたいと思う。
そして、いつかここに戻ってきたときは、また運転手として、一人の友達として再会することを約束して別れた。
結局、ダナンからホーチミンまでの国内線の飛行機は、予定より2時間近くも遅れての出発となった。
こんなことなら、もっとゆっくりしていればよかったな、とつい考えてしまった。
無事にホーチミンへ着いて搭乗した帰りの飛行機は、見渡す限り満席だった。
決して、広くはない機内で知らない者同士が肩身を縮こませて乗っている。
ただひとつわたしの隣の席を除いては...
深夜から早朝にかけてのフライトは多くの人があの手この手を尽くして座ったまま安眠を得ようと努めている。
なんということか、わたしの隣もその隣の席も無人だった。
これは宝くじに当たったのか、それ以上にうれしかった。
ご褒美を前借りしてしまったような気持ちで遠慮なく横になって寝させてもらった。
その分、飛行機を降りたら明日からの生活の中で誰かにやさしくしようと思った。
自分はベトナムという国に大変な勘違いをしていた。
無知な偏見というのは恐ろしいもので、ほんの少し前まで知る由もなかった、人のあたたかさもまたすぐにでもここへ帰ってきたいという気持ちも自分で体験したからこそ芽生えたんだと気づいた。
"Never judge a book by its cover"
(見かけで判断するな)
自分が経験したことが全てだ。
-END-