ホイアンの海
ホイアンにも海があることをご存知だろうか?
ダナンやニャチャンの海は世界的にも名が知られていると思うが、ここホイアンにも海があることは意外と知られていないのかもしれない。
“An Bang Beach(アンバンビーチ)”という。
調べてみるとわたしの滞在している宿から、程近い距離にあった。
起き抜けのそのままの勢いで向かってみた。
田畑を抜けて、田舎道から公道へ出る。真っ直ぐまっすぐ、市内へ向かう方向とは逆方向へ漕ぎすすめると視界が段々と変化してゆく。
ますます緑が増えてくる。
海の手前に川が流れており、そこを越えるために掛かる橋を渡る。
途中、露店で箱いっぱいに晒されて売られているシャコを見つけた。それを通勤途中の人が袋に分けてもらっている。見るからに新鮮そうでローカルを感じた。海が近いことを悟った瞬間でもあった。
またあるところでは、軒下で皆が一卓を囲うように朝食を摂っている。
朝のサイクリングを楽しみながら、そんな姿を目で追っていた。
そうそうわたしが見たかったのはこういうローカルの生活スタイルだったな、と思い出した。
ありのままの姿こそ記憶にとどめたくなる。
そのままで美しいのだ。
途中、水牛の親子に出くわして自転車を脇に止めて写真を撮っていたら、
団体バスが停車してきて、幾名かの欧米人の御一行様がダダーっと、降りてきて同じようにシャッターを切り始めた。
わざわざ止まってでも撮りたくなる、それくらい愛らしい野生の水牛の親子の姿だった。
数件の露店が軒を連ねる通りを越え、まだもう少し。
はやる気持ちを抑えて辛抱強く漕ぎ続けた。
ようやく、果てまで辿り着いて、眺めた景色は正真正銘のビーチだった。
ザザーン...
寄せては返す波。
平日の朝、聞こえるのはほぼ波の音だけ。
散歩をしている数人の欧米人を除くと、ひと気がほとんどない朝のビーチは静けさで包まれていて気持ちがいい。
片道10分くらい。
朝の気分転換には最適なサイクリングコースだった。
遊んでほしいのだろうか?人気の少ないビーチだから、人間の姿を見るとつい後をつけてビーチまでやってきたワンコたち。
先ほどから、時折こちらを気にしながら元気いっぱい戯れている。
楽しそうにじゃれ合う姿はまるでこちらの気を惹かせようとしているようにも映る。
元来あまり海に縁がなかったわたしも旅をするうちに徐々に海との縁が繋がれていっているような気がする。
遠い昔生命の誕生は海からはじまったという逸話を思い出した。
潮風に吹かれて、母なる海にフレッシュなエネルギーをもらった。
心が洗われる瞬間だった。
しばらくボーッと、眺めていると人には言えないような弱みも全て、吐き出してしまえるような気がした。
旅は浄化だ。
続く...