私的、ホイアンのすゝめ
「ホイアンにいるなら、ぜったいに試してみたほうがいいよ!」
そう、強く推薦してくれたのは旅好きの南アフリカ人の友人。
彼女曰くホイアンはかなりの上位に食い込むお気に入りのスポットらしい。
ふむふむ
生まれた場所も育った環境もまるで違うというのに、彼女とは惹きつけられるポイントが似ているとこれまでも幾度か感じてきた。そんな風に感じるからこそ、彼女のおすすめはやはり気に留めるし、ましてや想像に難い未知のものであればあるほど、こちらの探究心もそそられる。こんな風に、はじめてストックホルムで会って以来、お互いに旅の情報について発信しては、やり取りして今も変わらず仲良くしてもらっている。
不思議と偶然の出会いでも、出会うべくして出会った人とのご縁はきちんと続いていくからこれからもそういう出会いを大切にしたいなと思う。
という訳で、今わたしは雨宿りを兼ねて彼女が薦めてくれたとある珍味との新たな出合いを求めて自転車を漕いでいる。
突然の夕立に少々先を急ぎながら...。
オンボロ自転車よ、頑張っておくれ~~~
(実際問題、速く漕げないということは、たまに致命的である)
一口に雨...といっても所変われば風情があったり、情緒深かったり、旅をするからにはいずれのお天気も楽しみたい、と思う気持ちこそ持ってはいるものの、、今回ばかりは訳が違う。
一刻も早く軒下に入って、雨風をしのぎたかった。
ひとつ良かった点はと言えば、これからカフェに向かうタイミングであったことである。もしこれが、すでにカフェを後にしたというタイミングだったとしたら、ちょっとバツが悪い。
だから、前向きに自転車を漕げた。
そう、彼女のおすすめはベトナムのカフェのメニューに平然と存在している。
その友人曰く、
「自分はコーヒーは苦手だが、それはかなりイケる!」のだと。
期待感が増す。
それが、こちら。
最初にその名を聞いたときは、正直耳を疑った...。
「エッグコーヒー...?」
“エッグ”って、ニワトリのたまごのことだよね?
たまご+コーヒー?
タマゴ+Coffee?
玉子+珈琲?
卵+珈琲?
エッグコーヒー?
頭の中で思いついたワードを並べてみても想像に難く、むしろ気持ち悪さが増すだけでいずれにしてもしっくりこなかった。
実際、単に友人がわたしのことをからかっているだけかと思った。
ならばと、百聞は一見にしかずということで、注文してみた。
運ばれてきたコーヒーは、
ココアで描かれたハートも
ぷるっとした愛らしい見た目も
それが飲み物ではなく、当たり前のようにデザートと名乗る権利を持つかのような容姿をして現れた。
美しい...
(人は見かけによらないと言うけれど、目の前に現れたコーヒーを見る限り、すでに疑う気持ちはすっかり消えていた...)
せっかくの美しさを崩してしまうのは非常にもったいないような気もしたけれど、意を決してスプーンで一口すくってみた。
トロッ...
表面のカスタードのような黄色はハッとするほどトロトロとしていた。
ゴクン...
一口飲んでみると、不思議と懐かしいようなどこかで食べたことがあるかのようなプリンのような味がした。
誰しも好きそうなまろやかな幸福が口いっぱいに広がる。
そう思うと、直後ふんわりした印象とはかけ離れたガツンと濃いめのベトナムコーヒーが底から押し寄せてきた。(衝撃だった...)
甘さと苦さのバランスが絶妙で、お互いをうまく引き立てあっていることが最高のコンビネーションの証だった。
レシピも気になるところだが、単純に考案者あっぱれ、だった。
まるでティラミスを飲んで食べているようだった。
あっという間に、飲み干してしまった。
飲み物を飲むペースが速い、とよく言われる。
その場合、褒められてもけなされてもいないのだろうが、裏返せばカップを机に置くことを必要としないくらい美味しいのだ。
よく見るとカップの周りにお湯が張られていて冷めない工夫が施されている。
だが、今回に関しては冷める心配など杞憂だった。
若い男の子のスタッフがちらちらとこちらを気にしてくれて、何度か笑顔でお水を足しに来てくれたりする。
ちょうどお客さんがわたししかいないので、暇を持て余してくれたんだろうが、それにしても対応がとっても気持ちがいい。
「写真撮っていいですか?」と聞かれて
どうぞ、と答えたもののなんの写真だろうか?と疑問に思っていると、
おもむろにスマホを取り出して、写真を撮られた。
つまり、被写体はわたしということだったらしい。
この際、どうするの?という質問は先のサービスに免じて割愛させてもらうことにした。
そうすると直後に、先輩スタッフに見つかって「コラ!ちゃんと仕事すれ!」と多分ベトナム語で怒られている。
そんな姿でさえクスッと笑ってしまえるからかわいらしい。
エッグコーヒーはもちろんのこと、お店自体の雰囲気も、またお店で働いている全てのスタッフにも好感が持てた。
カム・オン(ありがとう)
ごちそうさま
そう言って、お店を出る頃には、雨はすっかり止んでいて、結果的に至福の雨宿りとなった。
彼女にも、お礼と感想を伝えなければ。
続く...